彼女が言い終わらない内に唇を塞ぐ。自分には自信があったけれど、京極清一郎と比べてどうかと言われれば、半分くらいの女は彼を選びそうだ。
彼は俺にはない大人の色気と余裕がある。俺には余裕がない。三ヶ月も連絡が取れなくて、俺から逃げようとする彼女とやっと出会えた。今すぐ彼女と繋がって安心したいという考えは俺だけのものだった。

ベッドの上で俺は真夏の手を一つに束ねる。

「黙って。俺のことが好きなんだろ。真夏ちゃん！」

真夏ちゃんは一瞬傷ついたような表情をしたが、俺はその表情の裏に隠れた気持ちを理解できないくらい追い詰められていた。俺の言葉にゆっくりと目を瞑って俺を受け入れる愛しい人。
長いまつ毛に伏せられた瞼の奥で何を考えているか想いを寄せる余裕はない。

「真夏！　目を開けて俺を見ろ！」

真夏ちゃんは頑なに目を開かなかった。愚かな俺は従順で純粋な彼女が拗ねて慣れない駆け引きをしていると、都合の良いように捉えた。
突然呼び捨てしてドキッとさせてやろうと言う下手な俺の作戦が悪い方に働いているとは思ってもみなかった。