「正真正銘、アレは冬城組の組長、冬城源次郎の一人娘である冬城真夏だ。どうしてそんなに拘る。女ならいくらでも他にいるだろう。極道の女の手練手管に惑わされたか?」 

俺はふとクリーニングに出して返ってきた真夏ちゃんの着物を思い出していた。縦縞の模様、黒地に流水が入った上質な着物は極道の女のものだ。

「彼女の正体が何でも俺は彼女を愛しています」
「そんなものは一時的で取るに足らない感情だ。女は古びると見れたものじゃない。会社の為の結婚さえすれば、女を好きに買い替えられる立場を大人しく享受しなさい」

父の言い分には実感があった。確かに彼は一生に一度のような恋を母として捨てた。そして今は若い愛人に夢中。俺が就職したら早々社長職を俺に渡して、愛人と南の島で暮らすという。
正妻は跡取りを産めなかった引け目からか何も言わない。そんな女の弱みに漬け込んで、情も持たずに自分の欲望を満たすだけに生きるのが俺の父親だ。真夏ちゃんと出会うまでは俺も所詮、自己中心的な父の血を継いでるのだと諦めていた。