お揃いのイルカのストラップが外された鍵を渡され、怒りが込み上げてくる。

冬城真夏が会社の利益にならないような家庭の子だから、父が俺から遠ざけようと動いていたのではないだろうか。

俺にとって冬城真夏は特別な子だ。日陰の存在だった母に対して、否定的でなかった女は初めて。
迷惑な自殺をした金持ちの妾と死んでも侮辱される母。真夏ちゃんは純粋に俺と一緒に母のお墓の前で泣いてくれるような子だろう。天然記念物のような透明で優しい彼女を手放したくはない。

「間口さんでしたっけ。真夏ちゃんに何を言ったんですか? 正直に言ってください」
「私はただ現状をご報告したまでです」

先程まで俺は佐々木雫とアフタヌーンティーをしていた。佐々木雫は俺の婚約者という事になっている。
母に祖父が涼波圭吾を諦めさせたのと同じ手口だ。当時の母は既に涼波圭吾の子である俺を妊娠していた。

「現状? 彼女を傷つけるような事を言っていたら承知しないからな」
怒りで声が震える。真夏ちゃんに佐々木雫の事を説明しておくべきだった。俺は彼女と結婚する気がないし、彼女も親に要求されるがまま俺と定期的に会っているだけだ。