着物で水族館に行くのを悩む冬城真夏に、母の遺した洋服を差し出した。女物の洋服が必要だったとはいえ、亡くなった母親の洋服を好きな女に着せようとした自分の気持ち悪さに吐き気がする。

『素敵なお洋服を貸して貰えて私は凄く嬉しい。それに、マザコンっていうのは母親想いってことでしょ。理想の息子だよ』

心臓が止まりそうな程、ドキッとするカウンターを彼女から喰らう。世界中が真夏ちゃんだったら良いのにと、彼女に出会ってから何度も思った。
俺の母は未婚のシングルマザー。実家に勘当されている彼女は亡くなってからも日陰の存在。

信用していた親友に自分の家庭環境を暴露したら同情された。
俺の周りは両親そろった裕福な人間が多い。同情などされたくない。ちゃんと母の存在を認めて一緒に墓参りしてくれるような存在を俺は求めていた。

真夏ちゃんはまさに理想の女だった。
水族館デートをして、らしくもなく震えながら彼女に合鍵を渡す。一生一緒にいたいくらい好きな人に出会えるとは思っても見なかった。