「当たり前じゃないですか。 あんな優しい人を見た事ありません」
「残念だったね。冬城真夏は俺の事が好きなんだ」
「⋯⋯まさか、ガソリンスタンドの彼って早瀬さん?!」

優越感に浸りながら彼女に告げると、彼女の顔は一瞬曇るも直ぐに輝きを取り戻し身を乗り出してきた。俺と佐々木雫は定期的に冬城真夏について語る仲になっていた。
冬城真夏は全身で俺が好きだと語り、俺に会うと失神しそうなくらいの好きビームを送る。

それなのに、一向に告白して来てくれない子だった。
俺は女に自分から告白した事がなく、彼女が告白してくれるように隙を作ったりしたけれど無駄。
俺と彼女の関係は一生平行線なのかと諦めかけた時、奇跡が起こる。

俺と冬城真夏の一向に進まない時計の針が進み出したのは、彼女の二十五歳の誕生日の雪の日だった。

着物姿に泣きそうな顔をした彼女がタクシーから降りてきて俺に声を掛けてくる。
お見合いから逃げて来たという彼女を家に連れて行き、怯える彼女を半ば無理矢理抱いた。

もっと、順を追ってゆっくりとことを進めればよかったのに、積りに積もった想いが溢れて我慢できなかった。