女は黙って寄って来たからか、自分から言い寄るやり方が分からない。だから、本当に好きな相手ができた時、どう口説いて良いか分からず時にはそっけなくなってしまった。

「ガソリンスタンドのお仕事好きなんですね。私も今の仕事大好きなんです」

涼宮食品の素晴らしさと、工場見学ガイドの楽しさを目を輝かせながらする彼女に俺はただ見惚れていた。

───涼波食品は俺の父である涼波圭吾が経営する会社だ。母親が亡くなった時、葬儀の場で涼波圭吾は俺を会社の後継者に指名してきた。

母を捨てて政略結婚の相手と結ばれた男。嫁とは子ができなかったらしく、自分の血の繋がった俺に会社を継がせたいらしい。今まで入学式や卒業式といった節目だけに現れた父親が都合の良い時だけ擦り寄ってくるのに吐き気がした。
母はいつも彼に感謝していた。十分な養育費を貰えているから、俺に何不自由ない生活を送らせられると笑顔で彼を語った。

母が立派だと語る涼波圭吾は反吐が出るような男だ。
女一人幸せに出来なかった癖に、自分は家族を大切にしているという顔をしている。俺は彼を好きになれなかったが、俺は大学を卒業したら彼の養子になる。