彼女は嘘つきだ。優しい嘘をつく女の子。涼波食品の寮に住んでいるだろう彼女。港南台の古い寮は駅からは徒歩で二十分以上は掛かるはずだ。なんだか体中がむずむずした。

彼女だけが世界で発光しているようにキラキラして見えた。気が付けば、翌日には最近できたばかりの恋人に別れを告げていた。
寝ても覚めても冬城真夏の事ばかり、俺は火曜と金曜の週二回だけガソリンスタンドのバイトを始めた。

「ガソリンを入れてください」
火曜の夕刻バイト先を訪れた彼女に思わず笑みが漏れる。

「真夏ちゃん、車乗るんだ」
「最近、免許をとったんです」

俺は彼女がここに来る口実の為に免許をとったのだと確信した。寮から涼波食品の本社まで電車で来た方が便利だし時間も掛からない。
俺に会う口実を見つけたくて、わざわざ車通勤の申請をしたのだろう。

「車を綺麗にして頂きありがとうございます」
顔を真っ赤にしながら告げてくる彼女が可愛過ぎて思わず目を逸らす。
「いや、仕事だから」