女の子の艶やかな黒髪はビチョビチョ、白いTシャツは雨で濡れて透けていた。俺はなんとなくその姿を他の人には見られたくなくて、バイト中なのに不思議な申し出をする。

「駅まで送るよ」
「はぅ。えっと、ありがとうございます」

手に取るように心が分かる女の子。それが冬城真夏だった。申し訳ないと思いながらも俺に惹かれている彼女は、駅まで無言でカチカチになりながら相合傘をした。

「気をつけて足を滑らさないように階段を降りてね」

地下鉄の出口で彼女をリリースしようとすると、名残惜しそうに俺を見上げている。
その姿が妙に印象的で、このまま持ち帰ってしまおうかと邪な考えが過ったところで彼女が徐に口を開いた。

「私、涼波食品に今年度入った冬城真夏と申します。このご恩は一生忘れません。傘、ありがとうございました」

「傘、持って行って良いよ」
俺が傘を差し出すと首を振る彼女。

「駅から降りたら直ぐ家なんで大丈夫ですよ」
「どこの駅」
「港南台という神奈川の駅です」