時は遡ること三年前。
早瀬ライは友人に誘われ長期休みにガソリンスタンドのバイトをしていた。
バケツをひっくり返したような大雨の日、彼は自分の運命を狂わす女と出会う。

♢♢♢

「すみません、店長、この傘借ります」
「おい、ちょっと!」
店長の静止も無視して、俺は店の傘を持って駆け出した。
大雨の中をうつむき加減に走る女の子を見て、居ても立っても居られなくなったのだ。

自分の足元に雨の滴が落ちない事に気がついたその子が振り向く。俺を見た瞬間、目を輝かせて照れたように俯く彼女。
今まで一目惚れしたと近付いてくる女は山ほどいたが、彼女のように目に見えて恋に落ちた瞬間を見せられたのは初めてだった。

「ガソリンスタンドの方ですか? 私は駅までダッシュすれば良いので大丈夫です。見苦しい姿をお見せしてすみませんでした」

ガソリンスタンドのバイトは夏休み限定。アルバイトというものに興味があって、してみただけだった。
結果は最悪。客だから偉いのかというくらい横柄な人間ばかりで直ぐにやめてやろうと思っていた。