私はメッセージを返そうにも、どう返して良いか分からない。私がライ君との子を産んだら、彼の婚約者である彼女にとっては迷惑だろう。これは墓まで持っていく秘密だ。

私はまた不安な気持ちが押し寄せてきて、そのままシーツにくるまって目を瞑って眠ろうと試みた。

『マナティー』
ぼんやりと低い声が聞こえる。
男の人の声だ。
目を開けようと瞼を持ち上げようとした時に、唇に温かくて柔らかい感触を感じる。私は危機管理意識が働き、そのまま寝たふりを決め込んだ。

誰かが部屋を出ていく気配がする。どれくらいか時間が経ったところで、私は喉が渇き冷蔵庫の水をとりに立ち上がった。
リビングに行くと、近くの寝室から話し声がする。

私は導かれるように声がする部屋に近付き、聞き耳をたてた。

『はい、アメリカで手術をしたら一旦帰国します』
聞こえてくる京極清一郎の声に血の気が引く。
私はなぜ彼が味方だと思っていたのだろう。

───京極清一郎が私の要望を叶える為だけに海外移住まで考えて自分の子でもない子を一緒に育ててくれる?