私は最後に自分の目に焼き付けるようにライ君と佐々木雫を見た。二人とも笑いながら楽しそうにお喋りしている。もう、ライ君は私のことなんかとっくに忘れているのだろう。

ホテルを出たところで、黒塗りの車と見覚えのある顔を見つける。

「園崎、何か用?」
「お嬢、葉山のリゾートホテルまでお送りします」
どうやら私の行動は、実家にも監視され報告されているようだ。

車に乗り込むと、運転席の園崎が私に小さな赤い紙に包まれたものを渡してくる。

「一服すれば、子が流れます」
「なんでこんなもの!」
江戸時代の大奥で使われたような謎の薬を渡され私は動揺した。

「お腹の子の父親は京極清一郎ではありませんよね」
言いづらそうに伝えてきた彼は私を心配してこんなものを用意したのだろう。
園崎は心優しい男で、小さい頃から私を気遣った行動を度々してくれた。


京極清一郎も事実を知った上で私を受け入れていると言ったら、彼は理解できずに混乱するだろう。
「この子は私の子。二度とこんなものを渡さないで」
バッグミラーに映った自分の顔がいつになく険しくて目を背けたくなった。