看護師さんに言われて腕を見ると、腕に針が刺さって管が繋がれていた。私は人生初点滴を経験している。

「今、何を打たれてるんでしょうか」
「そんな期待に満ちた目で言われても、ただの生理食塩水よ。熱中症になったら水分と電解質を補給しなきゃね」

てっきり強化剤でも打たれてパワーアップするのかと思ったが、体に足りない水分と塩分を補っているだけだったらしい。やはり、忙しくても頻繁に水分補給をするべきだった。

先輩俥夫の真島さんにも口酸っぱく言われていたのに反省しかない。

扉をノックする音が聞こえると共に、スーツ姿の男性が現れた。スラッとした背に精悍な顔立ち。どこから見てもエリート弁護士にしか見えないヤクザの跡取り、京極清一郎だ。

「看護師さんありがとうございます。ご心配お掛けしました」
退出を促すように物腰柔らかに言った京極さんに看護師さんが頬を染める。

「冬城さん、優しいパートナーにもう心配かけちゃダメよ」
「⋯⋯はい」