扉をノックして、ベテランっぽい看護師さんが入ってくる。

「目が覚めたのね。熱中症に、貧血。お腹に赤ちゃんがいるんだから、体力勝負のお仕事は控えた方が良いわよ。妊娠初期って大切なんだから」

私は一瞬言われた言葉の意味が分からなかった。

「妊娠?」
「もしかして、気がついてなかったの? 妊娠十週目よ。初産? 双子だから、帝王切開になるかと思うけれど分娩予約は早めにね。この辺りは直ぐに埋まってしまうわよ」

私はお腹を思わず抑えた。
(この中に赤ちゃんがいる?!)

「赤ちゃんの為なら私は腹切りでもなんでも受け入れます。麻酔しなくても良いから産みたいです!」

お腹の子はライ君との子。妊娠していると知られてしまったら、おそらく中絶させられるだろう。でも、私は自分の中に生まれた命を諦めたくない。

「ぷっ、何言ってるの? 麻酔をしなきゃ殺人になっちゃうわよ。腹切りというか、カイザーね」
「カイザー! カッコ良い! 皇帝みたいな名前ですね」
「それはカエサルじゃない? 冬城さん、面白いわね。点滴が終わったら、今日はもう帰って大丈夫だから」