その『真夏』が恋をして子を産むとは想定外だった。

(でも、愛しいわ。自分の子はびっくりするくらい愛おしい)

『帰って来なさい! 真夏、この状況について説明をするのよ!』

「貴女のところには帰らないわ」
風がマフラーを揺らす。
白い息が凍りつくほど、冷ややかな声が出た。

「私を利用してたでしょ。その報いを受ける時がきたの」
『⋯⋯何をしたの?』

「ふっ、それくらい自分で考えてくださいな。ただ、これだけは教えてあげる。貴女の大好きなしょうもない世界は、直ぐに全て消えるわ」
沈黙。
電話越しの息遣いが荒くなる。

『真夏!』
「さよなら、冬城渚さん」
私は通話を切り、ゆっくり目を閉じた。

胸の奥で、もう一度あの声が響く。
『子供を守れなきゃ母親じゃないわ』

あれは母が不義の子をおろすよう諭された時に言った言葉だろう。
(お腹にいた時は愛情を少しは持ってくれていたのだろうか)

母親である彼女でさえ私を愛さなかった。
(だから、復讐の鬼になろうと思ってたのに⋯⋯)

三日足らずで、冬城組は壊滅した。