空港に到着すると、冷気が肌を切るように刺さった。
蛍光灯の白い光が床に長い影を落とし、人々のざわめきが波のように押し寄せては遠ざかる。　
入り口で京極清一郎が腕を組んで待っていた。

私がGPSの事を指摘して頬にキスをすると、彼は私の人格が交代した事に気がついたようだった。

「アリーヤには子供たちを連れてフロリダに移動するように言ってある」
京極清一郎の作戦は非常に良くできている。
（でも、私の子はもっと凄いのよ）

私はゆっくり首を振りながら口を開いた。

「ねえ、ナーサリーにはヒスパニック系の子が多いでしょう？　 ルイはスペイン語をもう覚えてる。アリーヤとの会話は全部聞こえてるのよ。ルイならもっと近くの安全な場所で私を待ってるわ」
京極清一郎の眉がぴくりと上がった。
私は続けた。
「私の子は賢いのよ」

その瞬間、清一郎のポケットに入った端末が震えた。
発信源は空港内。

保安検査場裏の女子トイレから。

私は一歩だけ目を閉じ、微笑んだ。

「やっぱり。駄々をこねて抜けたのね。あの子らしいわ」

私は冬城組の車を空港の駐車場に置き去りにし、発信機をわざと残した。