その夜、襖の隙間からこぼれる橙色の灯りの中、私は鏡の前に座っていた。涙の跡を乾かした幼い頬を撫でながら、静かに呟く。
「優しくて、素直で、純粋な子にならなくちゃ」

渚の二人の姉の面影を混ぜてつくりあげる。慈悲深く、お人好しで、動物が好きで、誰かを傷つけるなんて考えもしない人間。

渚が決して攻撃しないタイプの弱く、守られるべき娘を。

ゆっくりと、呼吸が変わる。
視線が変わる。

心の奥の鋭い針が、薄布の下へと隠されていく。

翌朝。

庭で猫を抱きしめて笑う真夏を見て、源次郎は目を細めた。
「まるで人が変わったみたいだ」

その変化を成長と捉え、冬城家の誰も疑わなかった。
ただ一人、渚だけがほんの一瞬、眉を寄せた。

だが真夏は、母のその眼差しすら曇らせてみせた。

胸の奥で、もう一度、胎内の声が響いた。

『子供を守れなきゃ母親じゃないわ』
魂を締め付けるその言葉だけは、誰よりも強く、深く、私の復讐心を煽った。
(冬城渚、私を守るどころか利用する道具としか考えてない貴女なんて母親じゃないのよ)

警戒心の強い両親にも気づかれないよう、本当の自分を殺していく。