優しい愛情と笑い声に包まれた世界がある。

どうして、私だけ酷い世界に閉じ込められているのか。

(こんな酷い世界、壊してしまえばいい)

小さな手を握りしめた瞬間、胸の奥底から声がこだました。

『子供を守れなきゃ母親じゃないわ』
私は確かに母の声で胸にずっと刻まれるような言葉を聞いた。

その声は温かくも優しくもない。
けれど、揺るぎない強さをもっていた。

実際、母が私に対してそんな事を言った事はない。
きっと、私が母のお腹にいた時に聞いた言葉なのだろう。
私はそう解釈していた。

(守られたことなんて一度もないのに)
涙を袖で拭い、私は決めた。

(冬城組を潰す)
私は自分の出生の秘密を突き止め、母が私をここに連れてきた理由を探り当てた。
計画は幼いほど鋭敏だ。小さな手で綻びを探り、小さな心で計算を重ねる。

そして両親に気取られた。

「真夏? 最近、少し変じゃないか?」
そう問いかけたのは源次郎だった。鋭い眼光の奥に、薄い警戒が揺らいでいる。
私は瞬時に悟った。

(このままでは計画は上手くいかない)
敵を欺くには、まず心を差し出してしまうしかない。