俺の知ってる「マナティー」？　俺は一体、冬城真夏の何を知ってるんだ？

正門の横につけてある黒塗りの車は明らかに極道のもの。そこに立つ黒ずくめの刺青男も極道の男だ。

「お嬢、お勤めお疲れ様です」
「園崎、お迎えありがとう。今日も楽しかったわ」

俺は彼女が無理に口角を上げて、目を細めて笑顔を作っているのが分かってしまった。極道の女として遠巻きに見られている彼女は本当は迎えになど来て欲しくない。
でも、組長から「行け」と言われれば命令に従うしかない舎弟。そんな彼の意を汲み彼女は無理をしている。皆に無視されている学校生活が楽しい訳がない。

俺が恋した「マナティー」はそこにはいなかった。そこにいたのは、極道の女とは思えない気弱な女。「頭を使え」と彼女は言っていたが、普段は弱いふりをして相手を油断させているのだろうか。細かい事を考えるのは得意じゃない。俺はバラの花束をゴミ箱に捨てるとその場を去った。