コードネームの様な名前を名乗ると、彼女はなぜか少し口元をモニョモニョさせ去っていった。

（⋯⋯マナティー）

今、思うとカッコつけて舌を噛んで「真夏」と言おうとしたが、「マナティー」になってしまっただけかもしれない。
一ヶ月後に見つけた彼女は大人しい中学生だった。まるで二重人格のような彼女に釘付けになった。「マナティー」は俺の人生を狂わし、俺の心を一瞬で奪った恐ろしい女だった。

俺は「マナティー」こと冬城真夏の身元を突き止めた。冬城真夏は東京の指定暴力団冬城組、冬城源次郎の一人娘。大人っぽく見えたが、実は中学三年生だった。ヤクザが嫌いだと言うヤクザの娘。善良で大人しそうに見えて凶暴な一面を持つ女だ。
彼女の学校の正門で、俺は気がつけば九十九本の真っ赤なバラの花束を持って待ち伏せしていた。

一人昇降口から出てくる彼女は孤独そうだった。「さようなら」と声を掛けても皆が彼女を見ないようにして避けて行く。苦しそうな顔で唇を噛み、傷ついているのが手に取るように分かった。

俺の知ってる「マナティー」なら、「挨拶くらい返しなさい。礼儀のなってない子はお仕置きよ」と鉄拳を喰らわすはずだ。