ライ君に案内されたのは高級タワーマンションの三十九階の角部屋だった。
外階段のアパートに住んでいる苦学生のイメージを彼に持っていたから意外だ。

「どうぞ入って」
彼の甘い声で促され、ノコノコと部屋に足を踏み入れてしまった。
段差のない広い玄関に少し戸惑う。ライ君の靴しか置いていないが、一人暮らしの学生の家のイメージとはかけ離れたお店のようなシュークローゼットが併設された玄関だ。
靴で汚れる場所なのに、玄関の床も美しく輝く大理石でできている。
このタワーマンションは外観も内装も最高級だ。

「⋯⋯お邪魔しますって⋯⋯、ライ君って一人暮らしなの?」
夜に一人暮らしの男の部屋に来るなんて軽薄な女だと思われるだろう。
好奇心に負けて付いて来てしまったが、失敗したと直ぐに気が付いた。
シンとした空間が私を緊張させる。

「ここに五年前まで母と住んでいたんだけど、母が亡くなってからは一人かな」

少し寂しそうな顔をしたライ君をギュッとしたくなるのを堪える。
私は彼が渡してくれたふかふかのタオルで水滴を拭き取ると部屋の中に入った。