「こんなに沢山刺青入れて強くなった気になってるの? それとも熱狂的な虎党? 弱いくせに、ダサ過ぎよ。大切なものを守りたいなら頭を使いなさい。私、頭の悪い男って嫌いなのよ」

俺は羞恥で顔から火が出そうになった。普段、喧嘩は負けたことがない。今日はたまたまだ。

───それにしても、大切なものとは自分自身のことだろうか。

頭を使えと言った彼女自身は明らかに暴走族を武力で制圧していた。全くもって矛盾だらけだ。

「お前は何なんだ?」
恥ずかしいくらい掠れた声が漏れた俺を彼女は嘲笑した。

「何、その顔。私に惚れたの? やめてよね。私、ヤクザって嫌いなの」

俺は自分がどんな顔をしているのか分からなかった。でも、色素の薄い女の瞳に映る男は惚けた顔をしていた。

「今、私、楽しい遠足中なの。バイバイ」
女は俺を背に向け歩き出す。俺は慌てたように彼女に声を掛けた。

「お前、名前は?」
女はゆっくりと振り向き、口の端を上げ流し目で静かに見つめてくる。
制服を着ていると言うことは高校生だろうか、何だか妙に艶っぽくて禁忌の香りがした。

「私? 私はマナティー」