私はショックのあまり目の前がチカチカしてきた。この現象は何なんだろう。先程のシャンパンには薬が入っていた訳でもないし、アルコール度数十二パーセント程度のワインを一本空けたくらいで私は酔わない。

(前にもこんな事があった気がする。あれはいつだったか⋯⋯)

「京極清一郎は私の夫よ」
「裏切り者とは離婚させる。お前はそこにいる涼波ライ社長と結婚しろ」

隣を見るとライ君はニコッとした。大好きな人だったけれど、結婚できると聞いても全く嬉しくない。暴力団と関係を結んだら、涼波食品は最悪倒産しかねない。父は涼波食品をフロント企業にして利用しようと考えているだけだ。ライ君は敏腕社長と聞いていたのに、暴力団と関係して抱えるリスクを全く理解していない。

駐車場にバスが到着する。ゾロゾロと人が降りてきた。トロントとナイアガラを結ぶカジノバスだ。

「ねえ、源次郎さん。カジノにでも行きましょうよ。ここで立ち話は疲れちゃうわ」

猫撫で声で胸を擦り付けながら父におねだりする女。彼女が父をここから連れ出してくれれば逃げやすくなる。

「真夏、お前も来い」
「私はライ君とレストランに行くわ」