心臓の鼓動が速くなる。母は本当にお育ちの良い人で、怒りを外には見せない。そっと相手が察するように遺憾の意を示してくる。

桐の箱をそっと開けると中から出てきたのは、しっかりと梱包された二つの小さなグラス。

「ガラスのお猪口? お洒落だね。日本に帰ってきたら一緒に日本酒でも飲んで語りたいねってお誘いかな」
ライ君はこのグラスが何かわからないようで呑気な事を言っていた。
私はグラスを窓から差し込む光に翳す。怪しい緑色の光。ブラックライトを当てれば、もっとはっきり光るだろう。

このグラスにはウランが含まれている。ウランガラスはアンティーク品として現在では扱われているが、実際に飲み物を飲むグラスとして使ったら健康に被害を及ぼす。ウランは放射線物質なのだから当然だ。

お猪口は大きいものでも四勺程度。このグラスはそれよりも大きい。これはお猪口ではなく、子供用のサイズのグラス。裏を見るとサラとルイの名前が彫ってあった。
これは警告。母は双子を殺す気なのかもしれない。

目の前が急に一瞬チカチカし出して、眩暈がする。