私はトロントの自宅まで露見してしまっている事に震撼した。サラとルイは今ナーサリーにいて、お迎えの時間までは四十分くらいある。
何とか二人をお迎えに行って清一郎さんと合流したい。清一郎さんは明らかに私と子供たちを極道の世界から抜け出させようとしてくれていた。

「真夏ちゃん、乗って」

私がカバンからスマホを出そうとするとライ君に腕を引かれて、黒いリムジンに乗せられる。
趣味が悪い赤いレザーのソファーが私の知るライ君のイメージではない。敏腕若手社長と持て囃され彼も変わってしまったのだろうか。

私はつなぎの制服で笑顔で懸命にガソリンスタンドで働く彼が好きだった。お客さんの一人でしかない私を覚えていてくれて、溌剌と車を拭きながら喋りかけてくれる彼。
今、仕立ての良いスーツを着て、私にシャンパングラスを渡そうとしてくる男は別人だ。

気がつけばリムジンは発進している。

「どこ行くの? 私、用事があるの。車を止めて!」
「用事? ナーサリーに子供をお迎に行くんだよね。それなら大丈夫だよ。園崎さんが代わりに行ってくれるって言ってたでしょ」