頭では理解しようとしていた。
落ち着け。整理しろ。
わけわからんけど、とにかく順番に考えろ、と。
(そもそも……いつから俺のこと好きなんだ?
ていうか、俺、男なんだけど?
ていうか、親友の弟ってアリなの?
ていうか……いや、そもそも俺だぞ?)
思考がぐしゃぐしゃに絡まっていく。
真横には、
なんでもできて、王子様みたいで、
みんなが惹かれる“本物”の親友がいるのに。
(なんで、その劣化版みたいな俺を好きになれるん……?
本気でわからん……)
「……英検より難しい……」
「ははっ、なにそれ?」
りーくんは屈託なく笑った。
その笑顔は、普段より少し眉が下がっていて、
すこしだけ幼く見える。
「いいよ、真白。すぐに答え、出さなくても」
「……いいの?」
「うん。今までずっと待ってたから。
それがちょっと伸びるくらい、なんてことないよ」
(ずっと……って。
ほんと、この人いつから俺のこと好きなんだ?)
いままでそんなそぶりを感じたことはなかった。
初めて会ったのはスポ少の時だし、
家に来るようになったのも俺が五年生の頃からだし……。
その頃は一緒にサッカーしたり、ゲームしたりして、
そもそも俺が中学に上がってからは
リビングにいる時間なんてほとんどなくて、
おにぃの部屋に直行することが多くなってたのに。
なのに——
「ってか……なんで俺なの。
おにぃじゃないの? 顔だって勉強だって、
スポーツだって、おにぃの方が確実に上じゃん。
俺、何やってもおにぃには勝てないし……」
「いや、あいつは性格が終わってるっしょ……
夏樹の中身知ったらどう転んでも好きにはなれんのよ。
キャーキャー騒いでる奴らの気持ちが一ミリもわからん」
「…………何も言えねー」
「だろ? 真白の魅力は俺が一番わかってる。
これからどれだけ俺が真白の事好きか、
ちゃんとわかってもらえるように努力するね。
もう高校生になったし、アプローチするのはいいよね?」
りーくんは俺の右手をぎゅっと握ってきた。
「どんどん攻めるから覚悟してね。
で、早くいい返事聞かせてね!
あ、YES以外は受け付けてないので」
そういうと、つないだ右手の手の甲にチュッと
キスが降ってきた。
「なっ!!」
「じゃあ、今日は帰るね。
明日学校、一緒いこ。バイバイ」
(…………)
ぱたん、と部屋のドアが閉まる。
一拍置いて、階段を降りていく足音が
とん、とん、と規則的に遠ざかっていく。
その先で——「おばちゃん、ごめん!
ちょっと用事できたから、
おかずタッパに詰めてもらってもいいですかー!」
りーくんの声が、
リビングの方から微かに響いてきた。
俺はまだ固まったまま動けない。
さっきまでの温度も距離も、
全部幻みたいに指の間から抜けていく。
俺が現実に追いつく気配はまだどこにもなかった。

