俺はりーくんに手を引かれて、
自分の部屋へ戻ってきた。
さっきまで寝ていて
乱れたままのベッドが目に入る。
慌てて布団をパタパタとはたき、
なんとか形だけ整えた。
——ちゃんと告白したいから。ね?
そんなわけ、ない。
いや、あるのか? いやいや、あるはずない。
でも……耳元で言われた声が頭から離れない。
いや、違う、ちがえ、落ち着け俺。
(なんで告白? なんで今日?)
心臓だけが場違いに元気で、
ドクドクと勝手に騒いでいる。
俺はりーくんと距離をとり、ベッドの端に座った。
すると、ためらいなくゼロ距離で並んで座ってくる。
「……真白?」
肩に乗ったりーくんの腕の重みが、
冷静さを奪うようにじわっとのしかかる。
すぐ横にいるはずなのに、
距離感がうまく掴めない。
なんなら廊下の向こうから、
おにぃの「まじで無理!」という叫び声が飛んでくる始末。
(待て待て待て……頭が追いつかん……!)
なんとか距離を取らなきゃと思って、
俺は勉強机の椅子にすべり込むように座った。
散らかったままの教科書を適当に重ねたり、
数学の教科書を広げてみたりして、
「……数学、むずかしそう」なんて、
自分でもわざとらしい声を出してみる。
けれど、脳内は現実逃避フルスロットルである。
りーくんは、そんな小細工なんて
最初から見抜いてたみたいに、
ゆっくり俺の後ろまで歩いてきて、
椅子の背をつかんだ。
「真白」
その一言と同時に、
椅子がくるり、と軽い音を立てて回された。
強制的に向かい合わせにされて、
思わず呼吸が止まった。
目の前には、
光を飲み込むみたいな深い黒の瞳。
覗き込まれると、こっちの心まで
吸い寄せられそうな黒目がちの目で、
まっすぐ俺だけを射抜いてくる。
(うわ……近……)
その黒が、ほんの少しだけ揺れた。
「真白。俺、真白が好き。……付き合って」
りーくんは躊躇いもなく、
照れもごまかしも一切なく、
ただただ真っ直ぐに告白してきた。
目の前にいるのは、おにぃの親友で、
高校の先輩で、憧れの人で——
でも、それ以上でも以下でもなかったはずの人で。
「まーしろ? 聞いてる?
ねぇ、俺の彼氏になってよ。
ちゃんと夏樹の許可はもらったよ?」
「……え、はぁ?」
「当たり前でしょ?
“弟さんを僕にください”って言ったら、
好きにしろって言われた。
あいつが義理の兄になるとかウケるけど。
ね、だめなの? 真白は俺のこと嫌い?」
「き、嫌いなわけない! ないけど……
ないけども、ちょっと、ちょっとだけ待って……
情報量が多すぎて、さばききれん……」

