「……しろ。まーしろ!」
「……ん……?」
「真白、そろそろ起きな。もう夕方の5時だよ」
「……え……んん……えぇ……夕方?」
俺の記憶は卒業式の体育館で止まっている。
眠い目をこすり、布団の中から顔だけ起こす。
「そ、夕方」
「お、お腹すいた……」
「そこ~?第一声そこなの?」
「え……そこって?って……あ……」
俺は布団の中の空気が
やけにひんやりしていることに気づいた。
そして隣を見ると、
りーくんのきれいな鎖骨が視界に入る。
「なっ、えっ、りーくん制服は?ってか、俺もじゃん!」
すぐさまもう一度布団にくるまり、
状況を整理する。
(待って、ちょっと待って。そう、そうだ。
帰り、りーくんと一緒になって、それで……
家に来て、それで……あ、えっと……
あ、あんなことを……ひいいいいいい……)
「ましろ~。思い出しちゃった?」
「お、思い出しました……うぅ……」
「真白、超可愛かったな~。緊張して、ずっと目を
ぎゅう~ってつぶってた」
「で、でも……」
俺は少しずつ空白だった時間を思い出してきた。
「最後まで、できなかったじゃん……」
「うん、そうだね。
でもさ、俺も真白も初めてなんだから、
ゆっくりでよくない?
俺は、はじめからそのつもりだったよ。
真白が怖くなくなるまで、
ふたりでいっぱい練習しよ。前にも言ったけど、
こういうことしなくても、
俺は真白といれるだけでも十分幸せ。
先に進めたら、もっと幸せだけど、マストじゃない。
そこんとこはちゃんとわかってて」
優しい。どこまでも。
りーくんが迷いなく俺を大切にしてくれるから、
自分で自分を、
”俺なんか”って思っていたことが恥ずかしくなる。
りーくんが大切に思ってくれている自分を、
もっと大切にしたい。
この、完璧すぎる彼氏の横に、
自信を持って並びたい。
そして、この人を俺も幸せにしたい――。
今はまだ、無理かもしれないけど……
「うん。俺も一緒に入れるだけで幸せ。
でも、またリベンジしよ?
俺、自主練もがんばってみるね。
……イメトレからになっちゃうけど」
「…………」
「……りーくん?」
隣の彼は、なぜか体操座りのまま俯いて震えている。
「……なに?どしたの?」
「……もう、煽りすぎ」
「はい?」
「なんでもない!ほら!真白んち行くよ。
卒業パーティーしてくれるんでしょ?
遅くなったら夏樹と燈佳が怒っちゃうでしょ?」
「そうだった!早くいかないと!」

