愛され溺愛王子の末っ子は
いつでも“自分がいちばん”じゃないと気に食わない。
甘やかされて、多少のわがままも周りは許してくれる。
そして自分が可愛いのも自覚済だ。
ほんとに末恐ろしい。
俺はその光景に少しだけ呆れて、
ふぅ、と小さくため息をついた。

「真白、やきもち?」

「へ?」

「だって、なんか気に食わないって顔してる」

「そんな、全然だよ。燈佳が可愛いのは事実だし」

「ほんと?」

「ほんとほんと!」

そう言いながら、俺はなんとか平静を装う。
けれど――。

(なんだろ。今日のりーくん……
やたらつっかかってくる?)

りーくんの視線はいつもより近くて、
探るような、揺さぶるような感じがする。

次の瞬間だった。
りーくんの腕がいきなり俺の肩を抱きよせ、
そのまま顎を俺の肩にそっとのせてきた。

「……でも、俺は真白がいちばん可愛いと
思ってるけどね」

耳のすぐ横で声が震えるほど近くて、
息が触れた気がした。
そして俺の心臓が一拍、ドキンと強く跳ねた。

その瞬間――。

「あのさぁ。よくキッチンに母さんいるのに、
そんなこと話せるね、お前ら」

隣のソファから夏樹の声が飛んだ。
思いっきり呆れた溜め息つきで続く。

「下手したら聞こえるぞ? バカなの?てか、
兄弟の色恋とか聞くのマジきちーわ。ほんと無理。
場所考えろっつーの」

空気が一瞬で氷点下まで冷えた気がして、
俺はその場でフリーズした。

(……え?……色恋。……色恋って何?)

おにぃの言葉の意味を必死に追いかけようと、
俺は頭の中をフル回転させた。
……けど、無理だった。
“色恋”って何の話だ?
自分でも眉間にしわが寄っていくのがわかる。

そのとき、りーくんが突然すっと立ち上がった。

(え……?)

と思ったら、そのまま俺の顔の近くまで
ゆっくり顔をよせてきた。
心臓がまた跳ねる。


「真白。真白の部屋、行こ。
ちゃんと今から告白したいから。ね?」

隣から、
「おえええええ……ッ」
と、おにぃのえずく声が容赦なく飛んでくる。

(……え?え?え?)

俺はいよいよ思考回路がショートした。
完全に、プツン、という音が聞こえた。