「……約束、覚えてますか」
珍しく、りーくんが目を泳がせながら言った。
(え……約束って、あの約束だよね……?)
「お、おぼ、えてま、す……」
急に緊張が走り、言葉がスムーズに出てこなかった。
顔から火が吹き出しそうに熱くなる。
「今さ、本命の大学以外は全部合格もらってるじゃん?
だから、もし明日がダメでも、
俺はもう行くところは決まってるわけですよ。
当初の目標はクリアしてるってことじゃん?」
(ん?なんかまた論破しようとしてる?)
「……だからさ」
一拍おいて、
りーくんが息を吸う。
「例の約束、今日……前倒ししても、いいかなって」
「……え?ここまで我慢したのに?
明日、合格発表なのに……?」
「……いや、ごめん。
これは完全に俺の願望ってか、
性癖かもなんですけど……」
りーくんは、困ったみたいに笑った。
視線を逸らして、頬を赤らめている。
そして、ちょっと照れた声で言った。
「お互い制服のまま、ってか高校生のままがいいなって。
今日で俺、終わっちゃうから……」
(え?りーくん。めっちゃ真剣にバカなこと言ってる?
でもって、今までで一番照れてる?そこ?そこなの??)
俺は開いた口がふさがらなかった。
「だって仕方ないじゃん!制服は男のロマンだろ?」
急に声が大きくなって、さらにビビる。
俺は思わず本音が漏れた。
「……しょ、しょーもなぁ~」
「な!真白、ひどい!俺って結構イケメンなんだよ?
そしてモテメンなんだよ?将来有望よ?
そんな俺の、数少ない願望なんだよ……?
バカにすんのはどうかと思う!」
りーくんが思ったより切実すぎて、
俺は吹き出してしまった。
「ははははは!りーくんやばい!」
「ましろ~?」
本当にそうだ。
イケメンで、ピアノが弾けて、運動神経抜群で。
そのうえ難関大も決まってて。
将来の夢は公認会計士。
そんな人が、
俺にめちゃくちゃしょうもないお願いをしてる。
(そんなのもう――)
「……いいよ」
「え?」
「だから、いいよ。りーくんの願望。
一緒に叶えにいこ!」

