お兄ちゃんの親友が、俺にだけ溺愛がすぎる






聞き慣れた声が、
桜並木の向こうから真っ直ぐ飛んできた。

胸が、どくん、と大きく跳ねる。

(……え)

反射みたいに足が止まって、
俺はゆっくり振り返った。

人混みの中をかき分けて、
少し息を切らしながら走ってくる影。

「間に合った!真白、いっしょに帰ろう」

そこには、両手いっぱいに荷物を抱えた
りーくんが立っていた。

「な、なんで……みんなといれるの、最後じゃん」

「まぁ、そうなんだけど……
でも制服着て真白と一緒に帰れるのも最後だから」

「で、でも……」

「いいの。
クラスのやつらとはまた春休みに集まる約束してっから。
俺は、今、真白と帰りたいの」

何の迷いもなく、まっすぐに俺を見つめて言うから……
だから、思わず頷いてしまった。

「そもそもだよ?残りの貴重な3年の登校日に
インフルエンザになって学校休んだの誰だよ?
そのおかげで合格発表もひとりで見る羽目になるし……」

「ご、ごめん……」

「あ~あ、一緒に合否見たかったな~。
超心細かった。
学校だってさ、一緒に行ける日カウントダウンしてたの
真白なのに、いっきに3日もぶっ飛ばすんだもんな~。
俺の方が色々心残りだよ。わかってる?
ちょぉーーー貴重だったのに、わかってる?」

りーくんがめずらしくねちっこい。
俺をじとっと睨みながら、大げさにため息をつく。

「わ、わかってます……ごめん……
で、でも、本命が残ってるじゃん?明日でしょ?」

「そだね。明日」

「だから、明日は一緒に見よ?
そりゃ、インフルになったのは申し訳ないけど……
わ、わざとじゃないもん……
俺だって、ほんとは制服デートとか最後にしたかった……」

自分の吐いた言葉に自分で傷つく。
止まっていた涙腺の活動が再開しそうだ。

「うん。ごめん。言い過ぎた。
だから、一緒に帰ろ?」

そういって、りーくんはガバッと俺に
覆いかぶさる。
俺の左肩にガサッと紙袋がなだれ込んできた。

「うん。帰る。一緒に帰る……
ってか、荷物、ちょっと持とうか?」

「いいよそんなの、って言いたいけど、
やっぱ手伝ってもらってい?めっちゃ重い。
し、手繋ぎたい!」

「なっ!そんな理由?」

「そんな理由ですよ!
ほら、荷物左で持って。俺右で持つから」

りーくんの声が心なしか弾んでいる。
機嫌がいいのが伝わってきて、こっちまで嬉しくなる。
俺は荷物を持ち直して、
右手でりーくんの左手を握った。

「真白さん」