お兄ちゃんの親友が、俺にだけ溺愛がすぎる





しばらく走ると、見慣れた道に入った。
ここをまっすぐ進んで角を曲がれば、
もう俺の家が見える。
りーくんは、左手でまだ俺の手を握ったまま、
右手だけでハンドルを操作していて、
自転車はふらふらと頼りなく揺れていた。

そのうちスピードもゆっくりになって、
その揺れはさらにゆらゆらと大きくなる。

「……あー、ましろんち、見えてきちゃった。
……やだな」

声は拗ねたみたいで、でもどこか本気だった。

「こんなに一緒にいたのに……
……まだ一緒にいたい」

胸の奥がじんわり熱くなる。

「……そんなの……俺もだよ」

言った瞬間、
りーくんがふっと息を吸った気配がした。

「……もぉー、早く大人になって、
真白を連れ去りたい」

その言葉は、風より早く俺の胸に飛び込んできた。

「……早く連れ去ってよ。ちゃんと待ってるから」

自分で言ったくせに、顔が一瞬で熱くなる。
その直後――キィィッ!!

「わっ!」

いきなり急ブレーキがかかって、
自転車がその場で止まった。
勢いで前につんのめり、
鼻がりーくんの背中にごちっとぶつかる。

「っ……いたっ!
え、どうしたの、りーくん?」

止まった理由がわからず、
俺は背中に手をついたまま固まっていた。
りーくんは急ブレーキをかけた姿勢のまま、
ハンドルに添えた手も、その肩も、ぴたりと動かない。
湿った夜気の中で、少しだけ沈黙が落ちた。

「……真白」

りーくんの俺を呼ぶ声が、ほんの少しだけ震えていた。

「俺、多分……1回タガが外れちゃうと、
ズルズルいっちゃいそうだから。
……ここで宣言しとくね」

「え……?な、何の話……?」

心臓が変な音を立てる。
りーくんが何のことを言っているのか
本気でわからない。

「真白。俺が大学受かったら……
その時は――真白のこと、全部……俺にちょうだい」

俺は、りーくんの言葉が何を意味しているのか
すぐに理解した。
身体が動かない。
呼吸も忘れる。

そのまま自転車にまたがって、
りーくんはゆっくりと首だけをこちらへ向けた。

ちらりと後ろを振り返る彼の横顔を、
街灯の光が優しく照らす。

その顔は――
いつもの冷静で
余裕たっぷりのりーくんからは想像できないほど、
耳まで真っ赤になっていた。

2つも年上の先輩で、もともと大人びてて
ほんとに高校生なんか?と疑うくらい、
いつも冷静で……

そんなりーくんが、今はただの恋する
普通の男子高校生に見える。
俺は、今までで1番りーくんを近くに感じた。

(……好き……)

「うん。早くもらいにきてね」

顔を上げると、いつのまにか満天の空。
りーくんの笑い声が夜に溶けていく。

恋の神様なんて信じたこともなかったのに、
今日だけはどこかで聞いていてくれる気がした。
そんなふうに思えてしまうほど、
“好き”が胸いっぱいに広がっていく。

今の俺たちはこの距離。
そのもどかしさにのみこまれないように、
俺はもう一度、りーくんの背中にぎゅっと抱きついた。