俺は背中にしがみついたまま、そっと額を寄せた。
「……うん。大丈夫だよ」
自分でも驚くくらい、声はちゃんと落ち着いていた。
「おにぃ見てたらわかるもん。
明らかに、三年になってから勉強量増えたよね。
切羽詰まってるって感じじゃないけど……
時々、めっちゃ分厚い参考書を本屋で買って、
自分の部屋に持ち込んでるの見るし」
りーくんが一瞬だけ息を呑む気配がした。
「そもそも三年入ってすぐ、
おにぃは予備校行ってるじゃん。
だから――大丈夫」
背中をぎゅっと抱きしめる腕に、自然と力が入った。
「りーくんの夢、応援してる。
今までみたいにいっぱい会えなくても……
一緒に登校できるだけで嬉しいもん」
少し間を置いて、
胸の奥にずっと隠してた言葉を、
勇気を出して押し出す。
「でも……不安になったときは、
“好き”って、ちゃんと言ってくれる?」
自分でも顔が熱くなるのがわかる。
それでも、抱きしめる力は緩めなかった。
湿った夏の風の中で、
りーくんの鼓動と俺の鼓動が重なっていく。
前から、小さく――けれど確かに聞こえた。
「……当たり前だろ」
その時、
りーくんの左手が俺の手にそっと重なった。
指先がかすかに震えていてる。
「……こんなこと言ってるけど、
俺の方が耐えれんかもよ?」
胸の奥がぎゅっと締めつけられる。
「真白は俺の癒しなんだよ。
定期的に摂取しないと死んじゃう。
我慢できなくなって
いっぱい会いに行っちゃうかも。
あ~、やだな受験……最速、推薦で終わらせたい!」
風が一瞬止まったみたいに感じて、
俺はしがみついたまま耳まで真っ赤になって
いくのがわかった。
「……っ、そ、そしたら……さ」
必死に言葉を探しながら、
自分でも
何を言ってるのかわからなくなるほど照れている。
「その時は……いっぱい甘やかしてあげる、ね……?」
りーくんの体がびくっと震えた。
前でひとり、黙り込んでいる。
「……やばい……俺……心臓爆発しそう……」
思わず笑いそうになったけど、
その背中が少しだけ熱くなっているのが伝わってきて、
俺も胸の奥で同じように爆発していた。

