目が覚めると、
部屋の中はすっかり群青色に染まっていた。
カーテン越しの光も薄くて、時間の流れを一瞬で悟った。
スマホを見ると、画面には「18:10」。

「うわ、やっべ……寝すぎた」

ガバッと起き上がり、慌ててリビングへ降りる。
階段を下りきるより先に、ちいさな影が飛びついてきた。

「ましろ、おかえり! 一緒に折り紙しよ!」

燈佳がぎゅっと腕に抱きついてくる。

「折り紙か……うん、あとでな」

そう返したところで、ソファーの方から声がした。

「真白。おつかれ」

聞き慣れた声だ。
振り向くと、そこにはおにぃとりーくんが座っていた。

「え? りーくん、なんでいるの?」

「今日は夜ご飯、朝比奈家にお邪魔するのでよろしく」

「あ、そうなんだ……」

思わず返事がワンテンポ遅れてしまった。
ぼーっとした頭のまま、俺は冷蔵庫の前へ歩いていき、
牛乳をパックのまま口をつけずに流し込んだ。

「もう、真白!行儀悪い!」と、
お母さんの小言が飛んでくる。
冷えた液体が、ぽかぽかした体の内側にすっと落ちていって、
じわじわと意識が戻ってくる。

(……ちょっと目ぇ覚めた)

スマホを持ってダイニングテーブルに
向かおうとしたとき、りーくんに呼び止められた。

「真白、こっちおいで」

何だろうと思い、そばに行くと
手首をつかまれて引き寄せられる。

「もう制服脱いじゃったの? 似合ってて可愛かったのに。
もっとちゃんと見たかったなー」

耳元でそんなことを言われ、
そのまま理人くんの横の席へ座らされてしまった。

「でも、明日から毎日見れるよ?」

「そうだけど、初めて制服着てドキドキしてる
可愛い表情の真白は今日だけだろ?
カッターのボタンも上までピッチリ留めちゃって」

「俺は慣れてきても、ふたりみたいにそんな制服を
気崩したりしないと思うよ」

「あたりまえだよ。毎日上まで留めてて。
ずっとこのまま可愛い真白でいて」

「ねぇ、可愛いって言いすぎじゃない? 俺、男だよ?」

「男でも可愛いものは可愛いの」

「えぇー?」

さすがに“可愛い”を連発されすぎて、
耳のあたりがじわっと熱くなってくるのがわかった。
りーくんは絶対わざと言ってる。
わかってるけど、照れるもんは照れる。

そのとき、足元から小さな声が飛んできた。

「ねえ、りーくん。
燈佳は? 燈佳は可愛くないの?」

燈佳はりーくんの膝に手をかけて覗き込んでいた。
大きな瞳がまっすぐで、ちょっと不安そう。

すると、「燈佳は可愛いに決まってるだろ、ほらほら〜」
と言いながら、わき腹をうりうりっとくすぐりだした。

「やぁっ、りーくん、くすぐったいっ!」

燈佳は笑いながら身をよじり、満足そうに去っていく。

(ありゃ、おもしろくなかったんだな……)