「その通り」
りーくんは満足げにうなずいた。
俺は、ただぽかんと口を開けたまま固まった。
……理解が追いつかない。
りーくんは軽く息を漏らしながら、どこか誇らしげに言った。
「千秋先輩ってね、一言で言うと“透明感の塊”。
化粧とかほとんどしてないのに、めっちゃきれい。
派手じゃないのに、目が離せない感じの人なんだよ」
俺は瞬きの回数が増える。
知らない名前、知らない魅力、
知らないおにぃの世界。
「でさ、秀才で、女子バレー部のキャプテン。
もちろんバレーもめっちゃ上手いよ?
ていうか“天才”って呼ばれてたし。
本当は私立のバレー強豪校からも
声かかってたんだけど……」
りーくんは肩をすくめた。
「家庭の事情で、公立一本って決めてたらしくて。
その中で、“バレーが強くて一番賢い高校”がここだったわけ」
(……そんな完璧な人だったの?)
「なんかさ、全然擦れてないんだよ。
女を前面に出したり、ギラギラしてるタイプでもなくて、
なんか……素朴で、でも芯がちゃんとしてる感じ?」
りーくんがふっと笑う。
「まあ、ようするに
夏樹、見る目あるよねって話」
俺の喉が小さく鳴った。
「君のお兄さんのすごいところってさ──」
りーくんは、
まるで芸能人の裏話でも語るみたいに肩をすくめた。
「すぐアプローチしないところなんだよね。
でも、ただ見てるだけでもないわけ。
こう……しれっと近づいて、
“認知だけ”はちゃんとされてる状態作るの」
(……なにそれ、怖っ……いや、すごっ……?)
「でさ、千秋先輩、
今は勉強と部活でいっぱいいっぱいで
恋愛に興味ないって話、知ってる?」
「え……いや……」
知るわけない。
「それ聞いてから、夏樹は“アプローチやめてる”んだよ。
でも、“外堀”はしっかり埋めてんの」
りーくんは苦笑混じりに息を吐いた。
「ほんとすげーよ。
本人には気づかれないように、
じわじわ距離詰めてるんだよね。
千秋先輩に“恋愛する余裕”ができるその日まで、
ずっと……待ってる。そんでホラーなのが、
大学まで一緒のとこ狙ってるってとこ。
さすがに千秋先輩は看護学科らしいから学部は
違うけど、同じ大学の薬学部受けるって。
『おすすめの参考書教えてください』っとか言って、
たまに会ってんぜ?
夏樹が、よく俺の事ストーカーすぎてキモイっていうけど、
俺はアイツもたいがいだと思ってる」
(……おにぃ……そんな……)
知らない兄の顔がどんどん出てきて――。
俺はぽかんとするしかできなかった。
「どう、真白。ちょっとは安心できそう?」

