お兄ちゃんの親友が、俺にだけ溺愛がすぎる




「……まあ、そだね。なんだかんだ友達だな」

りーくんは、少しだけ照れたように笑った。

「こう見えて俺、ちゃんと友達って呼べるやつ
少ないし。
あいつも俺もなんだかんだ
ここまでずっと一緒にいるもんな」

その声音は、遠い昔を懐かしんでるみたいで
2人の長い時間がほんの数秒で伝わってくる。

「そりゃ友達やめる、なんて言ったら……
真白も傷つくよね。……ごめん」

素直でまっすぐな言葉に、
胸の奥がふわっと熱くなる。

「……うん」

自分でも驚くくらい、小さな声しか出なかった。

「でもさ、これだけは覚えといて。
俺は自分の気持ちよりも、夏樹よりも……
真白のことをいちばんに優先したい」

静かな声だったのに、
胸のど真ん中に落ちてきて、
痛いほど響いた。
息が詰まりそうで
心の奥がぎゅっと掴まれたまま動けなくなる。

(……だめだ。嬉しい……苦しい……
なんかいっぱいいっぱいすぎて……
どうしていいか、わかんない……)

りーくんは、
そんな俺の沈黙も全部理解してるみたいに、
やわらかく目を細めてこっちを見ている。

「俺……」

言った瞬間、喉が詰まった。
伝えたいことは沢山あるのに
続きがどうしても出てこない。
そんな俺を見て、
りーくんがそっと右手を握ってくれた。
ぎゅっと、でも優しく。

「いいよ。ゆっくりで」

その目が、本当に愛しいものを見るような、
全部包み込むみたいな目をしていて、
それだけで胸がまた熱くなった。

「……俺、目立ちたくないんだ。
中学の時もそうだったけど……
おにぃがあれだからさ。勝手に注目されて、
期待されて、がっかりされて……
だから、少なくていいから、
気の合う友達と静かに穏やかに過ごしたいって
ずっと思ってた」

りーくんは黙って頷いた。
握る手の温度が、続けていいよって言っている。

「でも……今日、合唱聴いて……」

胸がまたぎゅっとなる。

「すごい感動して……
歌とか別にどうでもよかったのに、
3年生の歌がめちゃくちゃ良くて……
なんでかフッと卒業の文字が頭をかすって。
卒業なんてまだ先なのに、
“あと9ヶ月しかないんだ”って思ったら……
なんか、寂しくなってきて……」

言葉がつっかえつっかえ流れ出す。

「一緒に過ごせる学校生活って……
もうそれだけなんだって思ったし……
なのに、そのあとでおにぃとりーくんが
カップルみたいって噂されてて……
もう、気持ちぐちゃぐちゃで……」

そこまで言ったところで、
もう続きが飲み込めなくなった。

「ああ……もう……
なんか、うまく言葉にできない……」

りーくんは、そっと親指で俺の手をなでた。

「大丈夫。ちゃんと伝わってるよ」

その一言で、
胸の奥の固まってたものが崩れていく。

「だから……俺が言いたいのは……」

息を吸い直す。

「りーくんは……俺の彼氏だって、言いたい。
おにぃと、じゃなくて……
俺が……彼氏なんだって」

言いながら、顔が熱くなる。

「わざわざ言いふらさなくていいけど……
勘違いはされたくない。
嘘も、もうつきたくない。
だって、そのうち受験~とかいって
全然会えなくなるでしょ?
だから、残りの学校生活は一緒に楽しく過ごしたいって、
そう思った……です……」

(……恥ずかしすぎて死ぬ……)

全部言い終わったら、
胸が軽いのか苦しいのかわからない
不思議な感覚になった。