お兄ちゃんの親友が、俺にだけ溺愛がすぎる






俺は──うん、と言えばいいだけなのに、
声が出なかった。
りーくんを前にしているのに、
こんなに愛されてる実感もあるのに――。
あの女子たちの言葉がふわっと浮かび上がってきて
胸がもやもやと渦巻いている。

(なつりひ……)

きっと今の俺は燈佳並みにわがままだ。

「……やっぱ、まだ準備できてない?」

低い声で問われて、背中がびくっと震えた。
その声音には責める色はないのに、
逃げ道が全部塞がれていくみたいで、
余計に心臓が縮こまる。

「……いや、そうじゃなくて……」

そうじゃない。
そうじゃないんだけど、言葉にならない。
呼吸ばっかりが浅くなっていく。

りーくんは俺の顔をじっと見つめたまま、
ほんの少し眉を寄せた。

「どうしたの?
もしかして──さっきのこと、引っかかってる?」

胸の奥に隠してた痛いところを、
指先でそっと触れられたみたいで、
俺は息をのんだ。

「………………」

返事できない沈黙が、
逆に全部を肯定してしまう。
りーくんはため息をひとつ落として、
手を伸ばして俺の頬に触れた。

「……真白はどうしたい?
俺は別に世界中に真白が俺の彼氏だってことを
公表してもいいって思ってる。みんなに自慢したいし、
見せつけたい。
でも……真白は学校では目立ちたくないんだよね?」

「……」

「でもさ、今は夏樹と俺がカップルみたいに言われて
凹んでんだ?なつりひだっけ?ほんとウケるよな」

(……りーくんの口からその単語、聞きたくない……)

「真白、俺はどっちでもいいよ。
真白が今、すっげー傷ついてんなら、
もう学校でも付き合ってるって言っちゃってもいいし、
嫌ならこのままでもいい。
噂なんてすぐ消えるだろうしね。
そりゃはじめは騒がれるかもしれないけど……
俺は真白が居心地よく学校生活を送ることが
最優先。1番だよ」

「……っ」

「ってか、なつりひってなんだよ!キモ!
まじないわ。っつか、俺が夏樹とつるむのやめれば
いいのか?」

「なっ!それはだめでしょ?余計……へんな噂たつよ……
それに、なんだかんだ言っても親友、なんでしょ?」