「ましろー。オレンジとウーロン茶、どっちがいい?」
「あ……じゃあ、オレンジで」
「OK」
りーくんは軽く笑って、
透明なグラスにオレンジジュースをとくとくと注いでくれた。
そのパックをちらっと見た瞬間、
思わず二度見した。
(……え? なにこれ。
こんなのスーパーで見たことない……
ていうか、外国の?
パケからしてすでにオシャレなんだけど……)
注がれた液体は、
いつも飲んでる“オレンジ色”より少し濃くて、
照明の下でキラッと光って見えた。
「どうぞ」
差し出されたグラスを両手で受け取って、
そっと口をつける。
ひと口飲んだ瞬間、
胸の奥にじんわり染みていくような静かな甘さが広がった。
(……美味しい……
ていうか、こんな味のオレンジジュースあるんだ……)
ずっと張りつめっぱなしだった緊張が、
ほんの少しだけほどけていく。
りーくんはベッドの端に腰を下ろして、
俺の反応を見てふわっと笑った。
「ちょっとは緊張ほぐれた?」
りーくんがコップを置きながらやわらかく笑った。
「え……バレてたの?」
「そりゃバレるでしょ。
真白、ガチガチだったよ。俺んち入った瞬間から」
(……うわ、恥ずかしい……)
自覚はあったけど、
りーくんに言われるといたたまれない。
ごまかすように、俺は話題をずらした。
「ねぇ……なんで今日はりーくん家なの?」
りーくんは一瞬だけ目を細めて、
まるで“簡単なこと聞くなよ”って言うみたいに、
あっさり答えた。
「そりゃ、真白にご褒美もらうためでしょ」
「……え?」
「だって真白ん家、だいたい燈佳いるじゃん。
今日だけは絶対邪魔されたくなかったからね」
その言い方があまりに普通で、
でも内容は全然普通じゃなくて、
俺の頭は一瞬で真っ白になった。
(ご、ご褒美って……あーあれのことだよね?
ってか“邪魔されたくない”って……いや、
いやいやいやいやいや……)
顔が熱い。
耳まで熱い。
もう逃げ道がないほど
顔が真っ赤になっていくのが自分でもわかった。
りーくんはそんな俺をじっと見ながら、
ニヤニヤしている。
「ね、真白。あれから2週間たったよ?
心の準備、さすがにできたっしょ?」

