お兄ちゃんの親友が、俺にだけ溺愛がすぎる







(今日は……もう無理……)

足が勝手に校門の方へ向かった。
視界がじんわり滲んで、前が見づらい。

“なつりひ”“りひなつ”の声が頭の奥でまだ反響してる。

(……お似合いって何……?
 確かに……確かに、りーくんの隣には
 美人とか……イケメンとか……
 そのほうがしっくり来るかもだけど……)

頬の横を、熱いものが一筋つーっと流れそうになって、
慌てて手の甲で拭う。

(泣くな自分……
 こういう時に泣いても許されるんは女の子だけだろ)

でも胸の奥がずっとちくちく痛い。
刺さるみたいに痛い。
校門がだんだん近づいてくる。
周りの生徒の笑い声と下駄箱の音が遠くなっていく。
その時スマホがポケットの中で震えた。
画面を見なくても、りーくんからだってわかった。

でも——
俺は見ない。見られない。

(……今出たら、声、絶対震える……)

ポケットの中でブルブル震えるスマホを無視して、
俺は校門を抜けて、バス停へ向かって歩いた。
いや、歩いたというより――逃げた。

(はやく……はやく着いて……)

視界が少しぼやける。
さっき拭った涙の残りが、またじわっと滲んでくる。
いつもより早歩きで校門を出たせいで、
バス停に着く頃には息が少し上がっていた。

(……あ、一本早いバス……来る……)

時刻表を見て、胸の奥が少しだけ軽くなる。
このバスに乗れば——
今日は、もう顔を合わせずに済む。

(……ごめん……今日は無理……
 りーくんの顔見たら、絶対泣く……)

バス停の影に隠れるように立って、
来るはずのバスの方向を見つめる。
そのときだった。

「——真白っ!!」

背中のあたりで、
大きな声が弾けた。

鼓膜まで震えるような、
聞き慣れた声。

(……なんで間に合っちゃうんだよ!)

振り返るのがこわい。
胸が、一瞬でぎゅっと縮んだ。