両親と三人で寿司を食べ終え、
ほかほかした気持ちのまま家に帰ってきた。
自分の部屋に入ると、春の日差しが明るく
フローリングを照らしている。
ゆるい風が吹き、カーテンをふわりと揺らした。
俺は制服をハンガーにかけ、部屋着に着替えた。
そしてもらった教科書を全部机に並べ、
一冊ずつ名前を書いていく。
数学の教科書をぱらぱらめくると、
もうすでに公式が呪文のように見えてきて、
思わず眉が寄った。
(……やばい。ついていけんのか?)
書き終えると不安な気持ちのままベッドに倒れ込み、
入学式でもらった学校案内のしおりをぼんやり眺める。
「部活、どうするかな……」
ふと、おにぃとりーくんのことが頭に浮かんだ。
あの二人、高校ではもう部活に入っていない。
中学まではサッカー部で、しかもそこそこ強かった。
ふたりともトレセンに選ばれるくらいだったのに……
今は社会人のサッカーチームに混ぜてもらって、
たまに試合に出ているらしい。
本当に“選ばれる側”ってやつだ。
俺も、小学生のスポ少までは同じサッカーをしていた。
おにぃがエースで、何本も点を決める横で、
俺はというと……全然うまくできなかった。
その時はフィジカルもメンタルも
激弱だったからディフェンスもいまいちで……
“夏樹の弟、マジ使えねえ”
誰かが言ったその一言で、心がパキッと折れた。
あの時の、胸の奥が一瞬で冷える感じは、
今でも少しだけ残っている。
結局、走るのだけは早かったから陸上部に入って、
長距離とか駅伝に出てみたりもした。
でも——高校に入ってまでやりたいかと言われたら、
そうじゃない。
(……バイトでもするか。いや、
そんなことしたらテストがヤバいことになるし)
「でも、なんもしないのもヤダ……」
ぽつりとつぶやくとふいに睡魔が襲ってくる。
ぽかぽか陽気で、お腹もいっぱいで……
まどろみの心地よさに、
抗おうとする気力すら抜けていく。
俺はそのまま、ゆっくり目を閉じた。

