お兄ちゃんの親友が、俺にだけ溺愛がすぎる







毎日毎日、空が鉛みたいに重たくて、
雨粒が校庭を埋めつくす“ザ・梅雨”の真っ最中。
……なのに。
今日だけは、奇跡みたいに晴れた。
梅雨の晴れ間どころじゃない。
雲ひとつない青空で、日差しは容赦ない。

(……なんだこれ、夏日じゃん……)

息を吸うたびに蒸し暑さがまとわりつく。
でも、空は最高にきれいだった。
そんな天気だけは完璧の一日。
午前の体育祭が終わり、
午後はそのまま芸術発表会へ突入する。

朝から俺の頭の中は、
ずっと――いや、本当にずっと。
りーくんのピアノのことでいっぱいで、
胸の中がずっと騒がしかった。

……けれど。
思わぬところで目ん玉飛び出るかと思った。
というのも――。
俺はすっかり忘れていたのだ。
りーくんも、おにぃも、
運動神経バケモンコンビだったことを。

特進科はほとんど帰宅部か文化部で、
体育祭なんて毎年ビリ争いの常連。
走れるやつなんてほぼいない。
なのに今年は3-8から選抜されたおにぃとりーくんが
本気を出し、クラス対抗リレーをはじめ、出場した競技で
ごっそり順位をかっさらっていき、
まさかの特進科が2位。前代未聞の快挙。

俺は声を失ったし、
応援席の先生たちですら「えっ?」と二度見してた。

俺が驚いたのはもちろんなんだけど、
当たり前に周りも驚いていた。
というか……
ふたりが競技に出るたびに、体育祭の空気が変わる。

りーくんとおにぃの名前がアナウンスされるたび、
観客席から黄色い歓声が飛んでくる。

「きゃーーー!!」
「東條先輩、脚長すぎ!速すぎ!」
「朝比奈先輩やばっ……イケメンが走ると風変わる……!」

女子たちはもう、
完全に恋する乙女みたいな目になっちゃってるし、
男子は男子で、「なんであいつらだけ速いんだよ……」
とか、「顔良くてスタイル良くて走れるとかズルくね?」
「特進ってああいうやついるの反則だろ……」と、
驚き呆れている。
嫉妬というより、
「なんか気に食わねぇ」っていう感情が
ぜんぶ顔に出てて、超わかりやすい。

りーくんがバトンを受け取って走り出すと、
空気が一段階上がるみたいにざわつく。
おにぃが抜いた瞬間の会場の沸き方はもう、
今年一番の盛り上がりだった。

(……なんなんこのコンビ……)

昔の俺なら、
こういう光景を見るたびに
“また自分だけ平凡だ”って落ち込んでたと思う。
おにぃとりーくん、
同じ学校にいて、同じ空気吸ってるのに
フィジカルも存在感も全部規格外で、
比べるだけ無駄ってわかってても
胸の奥がズンと重くなったりして。

……でも今は違う。

りーくんが走って、
歓声を浴びて活躍してる姿が
ただただ嬉しい。

“俺の彼氏、すげぇ……”
って、純粋に誇らしい。
なんだったら、
”この人俺の彼氏なんですよー!”
って大声で叫びたい。
でも、その後きっと地獄が待っているから
……やらないけど。

――午後はピアノだ。

俺は午前の活躍を見せつけられても、
りーくんのピアノの方がずっと気になって
仕方がなかった。