「……え、なんで……?」
りーくんは視線を天井に向けてからぽりぽり頭をかいた。
「本当はさ、高3だし、受験だし、
ピアノ弾く時間あるなら勉強したいって思ってた。
俺が弾かなくても誰かがやるっしょ?
だから1ミリも弾くつもりなかったんだよね」
「うん……」
「でも夏樹がさ、ぽそって言ってきたんよ」
「おにぃが?」
「『中学の時、お前が伴奏弾いてるの見た真白が
“すげぇ……かっこいい……”って言ってたぞ』って」
「は?……そ、それだけで……?
いや、そんな理由で……?」
りーくんは少しだけ目線を泳がせ、
照れ隠しみたいに鼻先を掻いた。
「……だって真白にかっこいいとこ見せたかったんだもん。
そしたら勝手に“やります”って言っちゃってた。へへ」
へへ、じゃねぇよ。へへ、じゃねぇんだよ!
でも可愛い……でも腹立つ……でも嬉しい……!!
胸の内側が忙しい。
「そんなの……伴奏って結構前から練習しないといけないし、
大変なんじゃないの?」
「そうだよ?そこそこ大変だよ?
なのに引き受けちゃったんだよ。……やばいっしょ?」
その笑い方が反則級に優しくて、
俺は完全に戦闘不能になった。
「やばいよ……やばすぎる。
そんなの、惚れちゃう……」
「おうおう!存分に惚れろ!
そのためにやるっつったんだから。
ちゃんと3年の合奏の時、体育館残れよな」
「うん。ちゃんと見に行く。……りーくん、大好き」
「ま、ましろ~」
そういってりーくんは再び俺を抱きしめた。
俺もそっと背中に手を回す。
「真白、キスしていい?」
「だから、ここ学校だってば!」
「誰も来ないって言ってんじゃん。
可愛すぎて無理。ダメ?」
りーくんの整いすぎた顔が覗き込むように
俺を見てくる。
この切れ長で黒目が大きく、どこか艶っぽい瞳に
見つめられると、俺はなにも言えなくなってしまう。
「……うぅ。
もう知らん……好きにして……」
りーくんはそっと優しいキスをした。
ピアノを弾く、細長くてきれいな指に
大きな手のひら。
その手が俺の頬に優しく触れる。
燈佳をあやす時とは違う、肌と肌が
ヒタッとくっつくような触り方。
親指が涙袋の下をすりっと撫でる。
なんか……絶妙にエロい。
「真白、もうちょっとエッチなキスしていい……?」

