お兄ちゃんの親友が、俺にだけ溺愛がすぎる




言った瞬間、胸の奥がじわっと熱くなった。
りーくんは、
ちょっとだけ申し訳なさそうに頭をかいた。

「あぁ……それね。……ごめん。
そう、伴奏弾くよ」

気づけば、言葉が勝手に口からこぼれた。

「りーくん……俺の彼氏なんでしょ」

「……うん」

「彼氏のことをさ……
 他の全然知らない人が先に知ってて、
 風の噂で聞くって……
 どんな気持ちになると思うん?」

自分でもびっくりするくらい、
声が震えていた。
りーくんはすぐに、深く息を吸い込んで言った。

「……うん。そうだよね。ごめん」

あっさり謝られて、自分の幼さが浮き彫りになったみたいで
余計に胸の奥がズキッと痛くなる。
止まらなくなった感情がそのまま次々とあふれた。

「あとさ……今日みたいに廊下で、
 ああやって気安く話しかけてくるのも……やだ」

「え?」

「なんか……うまく言えないけど……」

手が微妙に震える。胸が苦しい。
自分でも意味わからん。

「もう目立ちたくないって気持ちもあるし、
 なんか……じろじろ見られてさ……
 彼氏じゃなくてただの“知り合い”みたいに
 見られたのも嫌。学校じゃ彼氏っぽいことできないし……
 どうあがいても朝比奈夏樹の弟ポジなんだもん」

言った瞬間、顔が熱くなる。

「でも……
 かと言って無視されるのも嫌で……
 でも……イチャイチャされたらされたで……
 なんか……うわぁってなるし……」

脳みそがうまくまとまらない。
自分で自分にびっくりする。

「……俺も俺がよくわからん……」

胸の中にあるモヤモヤの半分も
伝わらなかった気がする……
でも、吐き出したことで心の中の風通しが
少しよくなった。

りーくんはそんな俺を驚いたように見つめて、
ゆっくり近づいてきた。

「つまり真白は、自分が特別扱いされなかった
ことに怒ってるんだ?
でも、学校では目立ちたくないし、
でも無視も嫌って?」

「……うぅ」

りーくんに改めて気持ちを言語化されると、
燈佳みたいににわがままでいたたまれない。

「おセンチだな、真白は」

そういってりーくんはふいに俺を抱きしめた。

「なっ、ここ学校!」

「こんなとこ誰も来ないよ。
もう、無理でしょ?
嫉妬、可愛いすぎ……キュンキュンしたじゃん……
そんなこと思ってくれてたなんて、
もう好きすぎる……」

りーくんはぶつぶつ言いながら
さらにきつく俺を抱きしめた。

「ちょっ、言いすぎ!やりすぎ!」

「そうかな~?」

「そうだよ!」

そういうと、すこしだけ腕を緩めてくれた。

「ね?真白。俺がなんで伴奏引き受けたかわかる?」