お兄ちゃんの親友が、俺にだけ溺愛がすぎる





そのあとも、俺のもやもやが晴れないまま
授業を受けていた。
ずっと同じことをグルグル考えている。
頭の中から追い出したいのになんでか、
ずっと離れてくれない。

三時間目の日本史。
黒板の文字が全部ミミズに見えるくらい集中できない。

(……なんでピアノ弾くって言わんかったん……?
 ていうか、あの女子の視線……マジでむり……)

ノートを開いても、
書いてる途中でペンが止まる。
りーくんの「や、まーしろ」が頭の中で反芻して、
じわじわ胃が痛くなってくる。

(……なんで、あんな普通なん……?
 なんで廊下のど真ん中……
目立つの嫌って知ってるくせに……)

チャイムが鳴った瞬間、俺は机に突っ伏した。
そのとき。
スマホが軽く震えた。
画面を見るとりーくんからだった。

『昼休み、屋上集合。』

(……は?)

(屋上なんて立ち入り禁止で鍵閉まってるはずだし……
そもそも屋上ってどこ?)

俺は即座に返信した。

『屋上ってどこ?そもそも立ち入り禁止だろ』

『A棟の最上階の扉の前。屋上につながる階段のとこ』
『待ってるからね』

(……はぁ……なんだよ……)

仕方ないから、短く一言だけ返した。

『りょ』

指が勝手にそっけなくなる。
態度に出てる自覚はある。
でも今日はもう抑えられない。
ため息をひとつ吐いたところで、
英語の先生が教室に入ってきた。

「Open your textbooksー」

(……終わった……)

英語。
よりによって英語。

黒板には知らん単語がずらり。
GrammarとかVocabularyとか、
日本語で言ってくれればいいのに、
わざわざ英語で攻めてくる。

(……もう無理。
 俺、日本人なんだから日本語だけで生きていけるやろ……)

内心キレながらも、
必死でノートに単語を書く。
でも書いてるそばから頭がパンクする。

irregular?
participate?
consequence?

(そんな難しい単語、
 俺の人生でいつ使うん……?!?)

横を見ると加藤が普通に授業受けてて腹立つし、
前を見ると先生が流暢に英語しゃべってて更に腹立つ。

気づけばまたため息が漏れてた。

(……昼休み、行きたくない……
 でも行かんかったら逆にややこい……
 もう……まじで知らん……)

英語の例文を書きながら、
りーくんへのモヤモヤが静かに、
じわじわと広がっていった。