玄関を抜けて廊下に入ると、
リビングのドアが勢いよく開いた。
「ましろー!! りーくんも!!
おかえりーー!!」
燈佳が全力の笑顔で飛び出してきて、
足にぎゅっと抱きついてくる。
「ただいま、とうか」
「ただいま」
ドタドタとにぎやかな足音の奥、
リビングではおにぃがいつも通り、
ソファにふんぞり返ってテレビを見ていた。
「……おう」
顔も向けずに小さく言うその感じが、
いつもの“おにぃ”で、安心する。
そこへ、
キッチンからお母さんが出てきた。
「真白、理人くん、おかえり。
二人とも腹ペコでしょ?
ご飯できてるから一緒に食べよう」
「はーい! うわ、いい匂い……!」
りーくんは満面の笑みで答えた。
聞いてるだけでお腹鳴りそうなテンション。
そのとき気づいた。
(……俺たち、まだ手を繋いだままじゃん)
「えっ……ま、まって……え……」
みんなの前なのに。
お母さんの前なのに。
なんなら燈佳にも見られてるのに。
りーくんは少しも動じず、
当たり前みたいな顔で手を繋いだまま
キッチンに向かっていく。
(……どういうこと……?
なんでこんな自然なん……?)
「り、りーくん……!
そろそろ……手、離して……!」
俺が小声で必死に言った瞬間、
りーくんは逆にそのまま俺の手をぎゅっと引っ張って、
ズンズンとリビングの方へ歩いていく。
「ちょっ、ちょっと待って……!」
その時、パチッとキッチンの入り口で、
お母さんと目が合った。
「……あら?」
一拍置いて、
「あら?
あらあらあらあら??」
お母さんの目が、
俺の手とりーくんの手を交互に見て、
完全に“察した”顔になる。
そこへりーくんが、
なんの緊張もない声で言った。
「はい、おばちゃん。
無事、真白にOKもらいました」
「……え?ちょ、りーくん!?
なに堂々と言ってんの!?」
俺が慌てて否定する暇もなく、
お母さんがパァァッと顔を明るくさせた。
「えぇぇーっ!?
理人くん、おめでとう!!
長かったねぇ!!」
「ありがとうございます!
頑張りました!」
「よかったよかった!
真白、ついに決めたのね」
「いやえっ!?
え、何?ちょ、待って……
俺まだ……状況が……全然……!」
完全にお母さんとりーくんだけが会話を進めていて、
俺は完全に置いてきぼり。
手は繋がれたまま。
顔は熱いまま。
思考は追いつかないまま。
(……え、なにこれ……?
なんで家族まで普通にわかってるの……?)
そんな俺の隣で、
りーくんは誇らしげに胸を張って、
「おばちゃん、俺もう幸せすぎて……」
なんてぼやいている。
お母さんも負けじと、
「じゃあ私は、晴れて息子が四人になったってこと?
さらににぎやかになるね~」
と嬉しそうに笑う。
そこへ燈佳が、
天使みたいな顔で追い打ちをかけてきた。
「りーくん、おにいちゃんになるの?
じゃあこれから“りひとおにいちゃん”って呼ぶね!」
俺は、脳みそがパンクして
目の前が一瞬ぐらりと揺れた。
(……無理……情報過多……無理!)

