お兄ちゃんの親友が、俺にだけ溺愛がすぎる





駅に着くと、
改札横の壁にもたれて誰かが立っていた。
……いや、誰かじゃない。
りーくんだった。

「おつ、真白」

ふわっと笑って軽く手を上げる。
その瞬間、
頭の中が一瞬真っ白になった。

普段の制服のりーくんじゃない。
そこにいたのは、いつもより髪がふわっとしてて、
小犬みたいに無造作にセットされたりーくんだった。

黒のゆるっとしたロンT。
白のハーフパンツ。
派手めの靴下に、大きめのスニーカー。
ストリート雑誌から飛び出てきたみたいで、
普段とのギャップがすごすぎる。

「……え、え……?」

言葉が出ない。
目がぱちぱちする。
顔まで熱くなる。

(これが……俺の彼氏?)

思考が追いつかなくて、
胸の奥がドクンと跳ねた。
りーくんはそんな俺の動揺なんて
全部わかってるみたいな顔で近づいてくる。

「どう? 俺の私服、初公開」

「……っ、いや、その……かっこよすぎ……」

まともに目を合わせられない。
駅前なのに、息がうまく吸えない。
りーくんの私服姿、反則すぎる。

「まぁ君のおにーちゃんのアドバイスも
入ってるのは解せないけど、
真白をドキドキさせたかったからね。
作戦成功?」

「成功すぎ……完落ちだよ」

「真白も可愛いよ。ハーフパンツお揃いだね」

「俺も気に食わないけど、おにぃが選んでくれた。
シャツもおにぃが貸してくれたし……」

俺は俯いたまま顔があげれない。
意図せずペアルックみたいになったのが
恥ずかしい。

(……おにぃ、わざとこれ選んだ?)

「はは、なんか見たことあると思った。
おそろコーデいいじゃん!」

「……うん」

りーくんが俺の反応をひとしきり楽しんだあと、
「行こっか」と短く言った。

次の瞬間だった。
すっ……と何の前触れもなく、
本当に何事もなかったかのように、
りーくんの手が俺の手をさらって絡めた。

指先から、掌まで、全部。
自然すぎて、逆に頭がついていかない。

「えっ……えッ!? て、手……!」

声がひっくり返る。

りーくんは涼しい顔で俺を見おろした。

「恋人でしょ?
 手ぇ繋ぐのはデートの鉄板」

サラッと言うな。
心臓が持たん。

「や、でも、こ、こんな駅前で……!」

「駅前だからいいんだろ。
 ……真白が隣にいるってわかるし」

そう言って、
キュッと指を絡める力が少しだけ強くなった。
触れてるところからじわっと熱が湧きあがって、
腕、肩、胸の奥へと燃え移ったみたいだった。
ドクン、ドクン……って、
自分の鼓動がりーくんまで伝わってる気がする。

「……っ、むり……心臓忙しすぎる……」

ぼそっと漏れた独り言に、
りーくんがクスッと笑う。

「じゃあもっと忙しくしてあげる」

耳まで真っ赤になった俺を連れて、
りーくんはそのまま手を離す気配もなく、
映画館へ向かった。