放課後のチャイムが鳴った瞬間、
俺は息をのんだ。
今日は、りーくんと映画デート。
なのに、なぜか
「下駄箱じゃなくて、一回家に帰ってから駅で待ち合わせ」
って言われた。
なんで帰るんだろう。
制服のまま行ったらダメなんか?
それとも、合服じゃ嫌だったんか……?
そんなことを考えながら、
友達の輪をそっと抜けて校門を出た。
一人で下校するなんて、
なんだか少しだけ久しぶりだ。
夕方の風はまだ涼しくて、
開いた第一ボタンの隙間に入り込んだ。
りーくんと歩く帰り道は、
いつも騒がしくて楽しいのに、
今日は周囲も妙に静かだ。
「……変なの」
ぽつりとつぶやきながら家の前に着くと、
胸の奥だけが、さっきより少し熱くなっていた。
スマホを見ると、16時15分。
駅まで自転車で5分。
待ち合わせの電車は16時40分。
「……やばい」
つぶやいて、家を出るまでの時間をざっと逆算した。
問題は服。
急にデートって言われても、
何を着て行けば正解なのかわからない。
部屋のクローゼットを開けた瞬間から、
俺はひたすら服と睨み合った。
もう20分も同じことをしてる。
「白パーカー?いや、今日は暑いか……
いやでも半袖は早い……待ってどうしよ……」
あーでもない、こうでもないと騒ぎながら
ごちゃごちゃ服を引っ張り出していたら、
──バンッ!
勢いよくドアが開いて、
おにぃが片手にペンを持ったまま顔を出した。
「……うっせーんだよ、真白。
勉強中なんだよ!」
「え、あ、ごめ……なぁ、おにぃ~!
どんな服がいいと思う?」
「知らん」
「ねぇー助けてよ、お願い~」
「はぁ?何着てもあいつは
喜んで飛びついてくんだろーが」
「で、でも、ちょっとでもよく見られたいのー」
「あーもう!」
ぽい、ぽい、と
俺が投げ散らかした服の中から
二、三枚を適当に選んで投げ返してくる。
「あとこれ着とけ」
そう言って、
自分の部屋から黒のチェックシャツを
無造作に持ってきて俺のベッドに放った。
「え、おにぃの?いいの?」
「うっせ。それでマシんなんだろ。
いいから早よ行け」
「おにぃーー!」
「やめろ!キモイ声だすな!!」
口ではぶっきらぼうなのに、
上着はちゃんと今の季節に合ったやつ。
思わず笑ってしまって、
俺はそれを大事に抱えて部屋を飛び出した。

