お兄ちゃんの親友が、俺にだけ溺愛がすぎる



りーくんが恋人になって2日目の今日。
制服移行期間になったので、合服で行くことにした。
ブレザーなしで玄関をあけると、
朝の空気がまだ少し冷たくて、
制服の袖口をぎゅっと握りしめる。
すると、門からりーくんがひょいと顔をだした。

「おはよう、真白」

いつも通りの待ち合わせのはずなのに、
胸の奥が勝手に跳ねた。
声も、笑い方も、昨日までと同じなのに──
ほんの少し、恋人の空気が混ざってる。

「……お、おはよ」

「うん、おはよ。ネクタイ曲がってる。
ほら、こっち向いて」

近い。
りーくんは俺の動揺なんて気にしないみたいに、
当たり前の顔で”恋人の距離”を保ってくる。

「ほら、今日も可愛い」

耳元でそう囁かれ、足が一瞬止まった。

「ちょ、ちょっと、りーくん……玄関なんだけど……」

「恋人だからいいでしょ」

「よくねーよ」

背後から低い声が落ちてきた。
睨むような顔のおにぃが、
バス停の方へ歩きながらぼそっと言う。

「おまえらマジで浮かれてんな。きちーわ」

「お兄さん、おはようございます。
義理の弟だよ~。仲良くしてね~」

「うざ!まじなんなん。
こんなでけー弟がいてたまるかよ。マジきもい」

「うわー、絵にかいたようなチクチク言葉。
先生、朝比奈君がいじめてきまーす」

「うっせ、だまれ。
真白、お前の男だろーが。ちゃんとしつけろよ」

「な、は……え、お、おまえの男?」

反論できるわけがない。
顔が熱くて、歩く速度がめちゃくちゃになる。
りーくんは横で、
嬉しそうに俺の肩に軽く触れたり離れたりしてくる。

「なぁ、真白。
 この前行けんかった映画、今日放課後リベンジしよ」

「きょ、今日!?」

「うん。俺、ずっと行きたかったし。
 真白と、ちゃんと“デート”したい」

もうダメだ。
心臓が朝からガンガンうるさい。
いろんなことが一気にふってきて
パンクしそうになる。
でも、不思議と嫌じゃない。
むしろ、ひどく嬉しい。

「……うん。行こ。デート」

小さく答えた瞬間、
りーくんの顔がとろけるみたいに笑って、
俺の頭をぽん……と撫でた。

「真白、やっぱめちゃくちゃかわいい。
ってか、合服も似合ってる!」

「なっ……バス停で言うな!」

周りに聞かれてないか確かめる俺を見て、
りーくんはわざとらしく肩をすくめる。

「だって事実だし」

ようやくはじまった“恋人としての朝”は、
騒がしくて、恥ずかしくて。
そして、ちょっぴり緊張していた。
……なのに、口元はどうしても緩んでしまう。
そのせいで、
俺は周囲にばれるんじゃないかとヒヤヒヤした。