お兄ちゃんの親友が、俺にだけ溺愛がすぎる



おにぃが吐き捨てるみたいに言い終わった、
その直後だった。
部屋の前の廊下で、
そっと、床板がわずかに鳴った。

「あ……」

ドアの隙間から、
静かに、音を立てないように――
りーくんが入ってきた。
気まずそうに、でも覚悟を決めた顔で。

さっきまで胸の奥で暴れてた涙が、
またぶり返しそうになる。
おにぃが舌打ちして「……もうこじらせんなよ」
と言って廊下に出た。
バタン、とドアが閉まる。

部屋には、俺と、りーくんだけが残った。
りーくんはしばらく何も言わないまま、
俯いた俺の前までゆっくり歩いてきて、
ベッドの横で止まった。

そして――

「……真白」と、俺の名前を優しく呼んだ。

「ねぇ、真白。俺が好き?」

「……うん。好き」

今度は迷いなく、心の底からすっと言葉が出た。
普段、あまり表情が変わらないりーくんが
今は耳まで真っ赤に染まっている。
小さな声で「ヤバ……」と呟いて
俯いている彼が心底、愛しい。

「うん。俺も好き。ずっと真白だけ」

「じゃあ、今日手を繋いでたのは?」

「あれはね、告白されてたの。俺を好きになる子は
結構強火の子がおおくて。OKしてくれないなら、
キスしたら諦めてあげるって言われちゃって。
でも、俺のファーストキスは真白って決めてたから、
手を繋ぐので許してって言って、アレだったんだ。
手は真白と繋いだことあったからね。誤解とけた?」

「とけたけど、でも……手もヤダ……」

「ええー、なにそれぇ……可愛いすぎるんだけど」

りーくんはその場で崩れ落ちた。
そして傍まできて、そっと俺の手を握った。

「真白、俺の彼氏になって」

俺は手を振りほどいて、りーくんに抱きついた。

「うん!なる!彼氏になる!」

「真白!」

りーくんは俺を抱きしめ返した。
ふたりで硬い床に転がり込んで笑いあった。

「やっと可愛い子ちゃんがおれのものになった」

「うん、そうだよ。
りーくんも俺のもの?」

「あたりまえでしょ。俺の事ひとりじめ。
触れられるのも、可愛がるのも、いじめるのも、
全部真白だけだよ」

「俺はいじめたりしないよ?」

「そうかなー?今だって十分、俺をいじめてるけど」

「え?なに?どこが?」

俺は何かやらかしているのかと、
本気で考えてみたが全くこころあたりがない。

「真白。俺、長年真白への思いこじらせてるから、
色々ヤバいからね。
真白のペースにあわせてあげたいけど」

「ん?何のこと?」

「こーんな狼の前で無防備に抱きついちゃったら
何されっかわかんないよ」

そういうと、チュッとおでこにキスが落ちてきた。

「な、ん、な、な、え……はぁ?」

俺はプチパニックになった。
付き合うということは、もちろんあんなことや
こんなこともするってことで……

「はははっ、可愛い。めっちゃ焦ってる」

りーくんはめちゃくちゃ笑っていた。
いままで、こんな顔見たことがない。
機嫌がいいのがこっちにまで勝手に伝わってくる。
それが嬉しくて、
俺はもう一度りーくんの背中に腕を回した。

「な……え、真白、さっきの話聞いてた?」

「聞いてたよ。ね、しよ。ファーストキス」