お兄ちゃんの親友が、俺にだけ溺愛がすぎる



家に帰るまで、
何をどう歩いてきたのか全然覚えていない。
気づいたら玄関の扉を閉めていて、
気づいたら靴を蹴り飛ばしていた。
まるで夢の中みたいにぼんやりしたまま、
ふらふらと自分の部屋へ向かって、
そのままベッドに倒れ込んだ。

(……なんで……)

理由を探そうとすると、
胸の奥がぐちゃぐちゃに痛くなって、
息がつまる。
目を閉じても、
あの女の子の手がりーくんの手を包んでいた光景が
いやでも浮かんでくる。

「……っ……ぅ……」

声を押し殺しても、
涙は勝手にあふれた。
涙腺がバグったみたいに、
流れっぱなしだった。
止めようとしたら余計にあふれてきて、
枕がどんどん濡れていく。

(りーくんなんか……きらい……
 なのに……なんでこんな……)

何が正しくて何が間違いなのかも分からなかった。
自分の感情すら整理できなくて、
ひどく疲れた。
布団を頭までかぶって、
身体を丸めたまま、
ぐずぐず泣き続け、闇の中に沈んでいった。




バンッ!!と、扉が勢いよく開く音がして、
俺はびくっと身体を跳ねさせながら飛び起きた。
ドアのところには、おにぃが立っていた。

「おい、起きろ!」

「……な、何?」

声がまだ寝起きで少し掠れてうまく出ない。

「飯だよ」

その言葉に、反射的に枕元のスマホを見る。
画面には “18:20” の数字。

(げ……またこんなに寝てた……
 最近寝すぎじゃない?
 絶対、脳疲労おこしてる……)

「……いや、俺……今、頭痛い。
 食欲ないから……いらないって言っといて」

布団に潜り込もうとした瞬間。

「うっせー。そんなもん許されるわけねぇだろ」

おにぃの声が低く鋭く響いた。
次の瞬間、パチンと部屋の電気が強制的につけられて、
布団が容赦なく剥がされた。

「とっとと降りろ。グズグズすんな」

眩しさに目を細めながら、
俺はしぶしぶ身体を起こした。

(……もう最悪……)

気持ちはぐちゃぐちゃのまま、
俺は現実に引き戻されていく。
そして、仁王立ちしてるおにぃに聞いた。

「ねぇおにぃ。りーくんて、ほんとに俺の事
好きなんかな……いつから?
それともからかってるだけなの?」

自分で聞いて泣きそうになる。
いつのまにかこんなに好きになっていた。
知らない間にどんどん膨れ上がって、
今ではりーくんの気持ちを追い越してるに違いない。


「おまえ……やばいな」

「え?」