放課後。
今日はいつも通り、りーくんと帰る約束をしていたので
俺はいつものように下駄箱の前で待っていた。
カバンを抱えたまま、校庭をぼんやり眺めながら。
その時、スマホが震えた。
『ごめん、ちょっと遅れる』
(……何だろ?)
特に気にも留めず「わかった」と返して、
そのまましばらくぼーっと待っていた。
でも、ふと
(帰る前にトイレ行っとこう)
と思い立ち、下駄箱から廊下に戻った。
(……あれ?)
1年の教室がある3階まであがるのがめんどくさくて、
1階でトイレを探して彷徨っていたら
――気づいたら、りーくんのクラスの前に来ていた。
(いるかな……)
なんとなく胸の奥がざわつきながら、
教室の中を、そっと覗いた。
その瞬間――
呼吸が止まった。
りーくんが、女の子と二人で向かい合っていて、
しかもその女の子が、
りーくんの手を両手で包むように握っていた。
(…………え?)
一瞬、視界がゆがんだ。
音がぜんぶ水の底みたいにくぐもって聞こえる。
りーくんは笑っているように見えた。
女の子も笑っていた。
足が勝手に止まって、
目の奥が熱くなった。
(……なに、これ)
胸のざわざわが、
急に形を持って暴れだす。
気のせいとか、勘違いとか、
そういう言葉が全部使えなくなるくらい、
はっきりした光景だった。
つやのあるゆるい巻き髪で、
小さな顔にやわらかい目元。
季節外れって突っ込みたくなるような
カーディガンを萌え袖にして着ている。
スカートは短くて、
そこから伸びる細くてしなやかな足がまぶしい。
(うわ……)
腹が立つのは、
その子が“ギャルっぽい”とか“遊び人”とか、
そういうわかりやすいタイプじゃないってところだ。
明らかに、
やることはちゃんとやってそうで、
不真面目にも見えなくて、
ただ――本気でかわいい、
どこにでもいそうな“良い子”。
(そういう“普通に可愛い子”って、
男からしたら一番強いやつだろ?)
俺には到底できないような仕草で、
りーくんの手を両手で包んで握っている。
(……俺、あんなの無理だし)
自分の不器用さが、
まるでその子の可愛さを
照らすための影みたいに思えてくる。
(いたい……)
そしてもう隠せなかった。
この痛みは嫉妬だ。
心臓をダイレクトに突き刺してくるこの痛みは
それしかない。
――手を握らないで。
――笑いかけないで。
――楽しそうにしないで。
――りーくんをとらないで……
俺は、今、初めてちゃんと
りーくんが好きだと自覚した。
(好きってこんな醜い感情で気づくんだな……)

